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腰痛症など脊椎疾患について

腰痛の原因

a. 腰痛の原因は椎間板ヘルニアか?

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腰椎分離症や腰椎すべり症など腰痛の原因となっているのではないかと考えられる状態が見つかる場合もあります。しかしレントゲンやCT、MRIなどの検査でこれらの所見が見つかったからといって、それらが100%腰痛の原因になっているかは不明です。腰痛で医療施設を受診した患者さんの多くが医者から"椎間板ヘルニアがあるから"と言われた経験があると思われます。

腰痛の原因としてここではあえて腰椎椎間板ヘルニアを挙げませんでした。腰椎椎間板ヘルニアが原因で手術治療が必要となる患者さんの症状は圧倒的に下肢痛(坐骨神経痛と言ってもよい)であり、腰痛はそれほどでもないことが多いからです。椎間板ヘルニアの病態については後に詳しく述べますが、簡単にいうと椎間板が突出して神経を刺激することによりその神経の通り道に沿って痛みやしびれを感じるということです。ですから腰痛はそれほど強くないことが多いのです。

なのに、なぜ腰痛の原因として医者は椎間板ヘルニアを挙げるのでしょうか?あるいは、レントゲンやCT、MRIなどの検査で腰椎分離症や腰椎すべり症などが見つかったからといって、それらが100%腰痛の原因になっているかは不明だということはどういうことでしょうか?

b.腰痛の明らかな原因はわからない

cut-03.gifまず腰痛の原因に関してですが、正直なところ"腰痛の原因はわからない"ということです。身体の支えである脊椎をしなやかに動かすことが出来るのは骨でなく軟骨でできている椎間板があるためですが、その椎間板が傷んでいれば腰痛を感じるかもしれません、しかし、レントゲンやMRIで椎間板が大変に傷んでいても腰痛がない人はたくさんいます。

レントゲンなどで明らかに腰椎分離症や腰椎すべり症があっても腰痛のない人も大勢います。腰を支えている筋肉や腰椎同士を支えている靭帯が傷んでいれば腰痛を感じるかも知れません。腰痛の原因としてそのような説明を受けた患者さんもいると思います。ではそう言われた患者さんの筋肉や靭帯が傷んでいるということをどのようにして調べたのでしょうか?MRIでは筋損傷や靭帯損傷が判明することもありますが、それがかならず腰痛の原因になっているかは明らかではありません。

要するにレントゲン、CT、MRIなど画像検査で異常を発見することは可能であるが、それが腰痛の原因であるかどうかはわからないということです。しかし、そのような検査が不必要ということではありません。腫瘍、化膿性疾患、高度な不安定性などが発見されれば、いわゆる腰痛症とは別の治療が必要になるかもしれないからです。

また、疼痛疾患(特に腰痛症)に対してはレントゲン、MRIなどの画像検査だけでは判断が困難であり、患者さんの心理的、社会的状況が疼痛に大きく関与しているということが以前からいわれています。患者さん自身がそのことに関して若干でも自覚されていればそのような説明もできるのですが、ほとんどの患者さんは腰が痛いのであるから腰に悪いところがあると信じ込んでいますので、心理的社会的要因に関して整形外科医が踏み込むことは困難なことであります。

c. なぜ腰痛の原因が椎間板ヘルニアということになるのか?

次に、なぜ腰痛の原因として医者は椎間板ヘルニアと説明するのでしょうか?前にも述べたように、腰痛のために診療所や病院を受診する患者さんはたいへんな数であります。症状の中で最も多いといってよいでしょう。

その他にも整形外科医は膝が痛い、手足がしびれる、肩こりなどたいへんに患者数が多い症状に対して診療しています。それに対して整形外科医師の数は十分ではありません。一日の外来で100人の患者さんの診察をする整形外科医もめずらしくはありません。そこへ腰痛の患者さんが受診され、腰痛の原因として上記の内容を説明して患者さんは納得してくれるでしょうか?

まず、上記の内容を患者さんに噛み砕いて説明するには20-30分必要であると思います。心理的社会的要因のことまで持ち出した場合はそれ以上時間がかかると思われます。待合室には待ちくたびれた患者さんがまだかまだかと待っている状態で何十分もかけて説明することはなかなか困難です。仮に上記の内容を時間をかけて説明しても、おそらくたいていの患者さんが、腰痛の原因はわからないということを納得できないと思います。また、これほど腰が痛いのであるから、腰に必ず異常がはるはずなのでMRI などの詳しい検査をして原因をはっきりさせて欲しいと思うはずです。

しかし、MRIなどで異常が見つかっても腰痛の原因であるかどうかはわからないのです。(さきほどCT、MRIなどの検査は必要であると述べましたが、それは腰痛が持続していた場合であって、アメリカなどの腰痛に対するガイドラインでは初めはレントゲンも必要性は低いとされています。)そのような状態に置かれた整形外科医はどうすればよいのでしょうか?

ヘルニアや腫瘍などによって神経が障害されている可能性がある、あるいは循環の障害があり早期に精査して対処する必要があるかもしれない、などといった急を要する症状ではないということだけ確認して、あとは椎間板が傷んでいて腰痛なのでしょうなどと説明するしかないのではないでしょうか?時間をかけて説明できることが理想的ですが、100 人訪れた外来患者さんに対して1人につき30分説明していたら、どうなってしまうのでしょうか?本当は整形外科医師は時間をかけて説明したいのですができないのです。日本の医療の弱点と言ってもよいと思います。

d. 私の例を挙げると

私は当院へ赴任する前は長野県松本市の相澤病院で脊椎外科医として働いていました。脊椎手術が必要な患者さんの診療で時間的に目一杯でした。いわゆる腰痛症や神経痛の症状の患者さんは近隣の診療所の整形外科の先生にお願いしていて、私は主には手術が必要であろう患者さんを担当させていただいておりました。

外来日には1日につき20人程度の患者さんの診療に当たっていました。それでも外来だけで8時間が必要でした。単純に計算すると1人につき24分ということになります。それくらいの時間があると上記のようなことをある程度説明できますが、それでも相当に急いで説明していると感じています。患者さんに本当に納得していただけたかも不明です。8時間かけて20人の診察をしてもそのような状態ですから、1日に100人の診療に当たる必要のある整形外科の先生に時間をかけた説明を求めることは不可能であると思います。

ここまで読まれた方は、医者の説明が十分でないことは医者のせいだけではないということがお分かりいただけると思います。そして、私が外来で1日に100人の患者さんをみないといけない状況になった場合は、きちんとした説明ができなくなると思われます。

投稿者:脊椎センター長|2009/03/02|14:03


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